ヲタ芸はアキバ発の暗黒舞踏なのだろうか?

今日は新宿URGAのオープン8周年記念の一環として行なわれたライブイベントに行ってきました。今年初めて訪れたライブです。

一番目に登場したKIGASさんが知り合いで、なおかつヲタ芸で有名なパターサンさんとのコラボだというので楽しみでした。その期待はまったく裏切られることはなく、予め想像していた以上のパフォーマンスを目の当たりにすることができ、とても幸福なひと時を送ることができました。

現代音楽に深く傾倒されているKIGASさんは、西欧古典音楽から大衆音楽までも踏まえた多層的で重厚な音楽を得意とされています。大学生時代に映画音楽を制作されていた経験もあり、音楽的なボキャブラリーが豊富で、それを突拍子もない形で組み合わせていく能力に長けています。

今日はハードディスクレコードに仕込んでだバックトラックに、バイオリン、キーボード、ボーカル、ナレーションを自在に組み合わせ、それに異装趣味を交えたアングラ的テイストで、極上のエンターテイメントとして楽しめました。ポストミニマル的な曲の展開法に『聖剣伝説』で有名な菊田裕樹の音楽性に通じるものを感じもしました。

今回のライブでは、ヲタ芸の巨匠として何度もメディアで採り上げられたこともあるパターサンがゲスト参加されていました。

ヲタ芸というのは、アキバ系のアイドルのイベントで歌唱に合せてファンたちが踊るパフォーマンスです。ノリノリの曲に合せて腕を左右に振り上げていく独特の踊りをTVで目にした方も多いことでしょう。

今回のKIGASさんの選曲は、ノリよりも内省的なメッセージ色の強いものでした。だから、ヲタ芸の達人がこれらの楽曲をどう演じられるのか、とても興味深々でした。

そしてそれはまったく予想外なものだったのです。

パターサンはまるで太極拳のようなしなやかで優美な動きから始めて、時にバロンダンスのように、あるいは狂言師であるかのように演じられたのです。

演奏終了後にご本人に伺ったところによると、今回はまったくのぶっつけ本番で演じたのだそうです。つまり即興であれだけ多彩な動きを演じておられたのです。

ヲタ芸恐るべし。ポストミニマル的な楽曲に東アジア的な身体技法を駆使して対峙されるとは、いやはやまったく脱帽です。

アキバには年に数回足を運ぶぐらいなので、まったくの門外漢ではあります。ヲタ芸の発生もその展開も詳しいことは知りません。

しかし、今日のパターサンのパフォーマンスを見て、アキバ発のアンダーグラウンド文化の中から、かつての対抗文化発祥暗黒舞踏に匹敵するかもしれないような、新しい汎アジア的な舞踏が胚胎し始めているのではないでしょうか。

ただし、それが実りあるものとなるためには、今回のような他の表現ジャンルとの積極的な交流が必要であると思います。