爆問学問file.35:「哲学を破壊せよ」

爆笑問題のニッポンの教養 FILE035:「哲学を破壊せよ」

昨日の夜見たTV番組にかつて教わったことのある方が出演されていました。哲学者の木田元先生で、自宅を訪れた爆笑問題の二人と哲学論議を繰り広げておられました。

木田先生と最後にお会いしたのはもう20年近く前のことです。ブラウン管越しとはいえ、久しぶりにお姿を拝見して、実に感慨深いものがありました。

番組のゲストとしては最高齢の79歳。3年前に癌の手術を受けたそうで、かつて直に接した頃と比べると少しやつれたお様子。ただ、物事をはっきりと言い切る姿勢は健在で、大学教授を退官してもなお著述に励む姿に触れて、私ももっとしっかり励まなければと、かつての教え子として反省させられました。

番組では、戦後の荒廃の中で闇屋を営みながら抱いた人生への不安と絶望から哲学を志した経緯と、西洋の文化形成の根幹を問うたハイデガーの思想から学んだ事柄とを語っておられました。

ご高齢ゆえ爆笑問題の二人もいつものノリ突込みを控えて、木田先生の話に聞き入っていました。

先生が大学入学して33年経ってようやく初めてハイデガーについて書くことができたとおしゃっておられましたが、私が在学中に出版された20世紀思想家文庫『ハイデガー』(岩波書店)のことです。

この本の後半でハイデガーニーチェシェリング読解に即しながら、この世とは別な超越的な原理を立てて説明するプラトン以降の西欧思想からは見失われたしまった「生ける自然」の復権、これが木田先生の後半生の思索の主題となったのでした。

ハイデガー』の内容は、後にもっと簡略化された上でナチス問題を加えて『ハイデガーの思想』(岩波新書)で手軽に読めるようになったので、興味のある方はぜひ読んでみてください。

出来の悪い教え子から感想を述べさせていただくと、先生が「反哲学」として述べられている内容は「反形而上学(思考)」と表現された方が、誤解されないのではないでしょうか。番組中、太田光氏も疑問を呈しておりましたが、それでもなおプラトンらの思想の可能性を抽出して肯定していく道筋があるはずなのですから。

学生時代に受けた原書購読では、テクストを正確に理解していくこと、ただその事のみを強調されておられ、その迫力に圧倒され続けました。

西欧哲学の根幹にある技術優位の自然支配の思想を批判される先生の知的な営みの背景に、西欧哲学の基本テクストを徹底して読み続けてきた重厚な蓄積があることを、その講義を通じて知っている者としては、哲学することの営みを軽んじるような態度と混同されることを危惧します。

先生の近著『反哲学入門』、近い内に必ず読んでみます。

木田元先生、お体を大切に。いつまでもお元気で、長生きなさってください。